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蒼穹ぬムリカ星~琉球的徒然草~

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かんつめ節

     昨夜がれ遊しだる かんつめあごっが
    翌日が夜なたと 後生が道ぬ袖ふりゅり


     昨夜まで唄遊びをしていた かんつめ姉さん 
     翌日の夜は あの世に袖を振って旅立つよ
奄美のシマ唄「かんつめ節」の一節です。
悲劇のヒロインかんつめのことを伝説はこう伝えます。

今から180年ほど昔の話。
名柄(現:宇検村)の豪農の家に家人(※)としてかんつめは買われてきた。
かんつめは色白の美人で歌も上手であった。
他の家人たちは、やっかみからかんつめに辛くあたった。
そんなかんつめを主人は度々かばった。
しかし、それは主人がかんつめに恋心を抱き、
いつか自分のものにしょうという魂胆からだった。
ある日、歌が上手ということで祝宴に招かれたかんつめは、
唄遊びの席で岩加那という他所シマ(他の村)の男性と出会い、二人は恋に落ちる。
二人は人目を忍びながら佐念山にある山小屋で落ち合い、
そこで恋を語らい、唄遊びを楽しんだ。
しかし、そのことが主人と女主人に知られてしまった。
夫のよこしまな気持ちに気づいた女主人は嫉妬に狂い、
他の家人たちも怯える激しい虐待をかんつめに加えた。
翌日、かんつめは他の家人たちとともにタキギ採りを命じらる。
タキギを拾い終えた家人たちが家路につく。
かんつめは、
「もう岩加那とは会えない」
という絶望から一人、思い出深い山小屋へと向かう・・・。

その夜、何も知らない岩加那が三味線片手に山小屋に行くと、
中にはいくぶん寂しげな表情をしたかんつめがいた。
かんつめは笑顔を浮かべ岩加那に寄り添い、
二人はいつものように唄遊びをはじめた。
その日の唄と三味線は、いつにもまして素晴らしいものだった。
やがて山鳥の鳴き声が夜明けを告げる。

「あかす世や暮れて汝きゃ夜や明けり、
かふ節ぬあればまた見きょそ‥‥」
(私の世界が暮れていき、あなたの世界が明けていく
果報節があるのなら、またお会いしましょう・・・)

かんつめは最後にそう歌い終えると、
岩加那の前から煙のように消えてしまった。
あわてて岩加那が周囲を見渡すと、
頭上には変わり果てたかんつめの姿があった。

かんつめの死後、人々はその死を哀れみました。
かんつめが生前に好んで歌っていた「草なぎ節」という唄に、
これらの出来事を歌詞にして歌い、かんつめ節が生まれました。
シマ唄には実際に起こった事件を題材にした唄が多くあります。
この唄も全てが事実ではないでしょうが、それに近い出来事があったのでしょう。
「かんつめ節」を歌うとかんつめの亡霊が出るとの俗説もあります
(幸か不幸か自分は歌えません)。
なんとも恐ろしくも悲しい物語ですが、なぜか強く心を打つものがあります。
機会があればいつか、佐念山の林の中にひっそりと建っているというかんつめの碑を訪ねてみたいと思っています。

※家人(やんちゅ)。薩摩の過酷な黒糖政策が生みだした奴隷制度。明治初期まで続いた。
by chunse | 2005-02-18 00:20 | しまうた雑感

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